本と音楽と珈琲の日々

読書録、日々の出来事、雑感をつれづれに

BR 『最果てアーケード』 小川 洋子

 

最果てアーケード

最果てアーケード

 

小川洋子氏の小説を読んだのは、「人質の朗読会」「猫を抱いて象と泳ぐ」に続いて3冊目でした。

前2作と同様、やはり著者の描く世界には独特の空気感があるように思います。物語を流れる風はどこまでも透明で、時間は流れるでもなく淀むでもなく、ただそこに静かに漂っているといった感じです。

本書「最果てアーケード」の舞台は、まさに日常から隔絶された特別な空間でした。物語に登場する義眼屋、輪っか屋、紙店、勲章屋、遺髪専門のレース編み師、ドアノブ専門店。それらのどれをとってみても、それらひとつひとつは奇妙で、興味深く、かつ愛らしいのです。そして著者の描くそうした人物や風景は、奇妙でありながらも、読み手の胸の奥深くに鮮やかに結像するのです。

読後、思わず細く長い息を吐きたくなるような、そんな雰囲気の小説でした。すべてが不思議な、不可思議な世界を描きながら、それでいていつのまにか読み手の心は洗われ、優しく癒されるのです。

この作品には、嵐のようなドラマティックさも、溢れ出す涙も、爆笑の渦も、そのひとつさえ描かれてはいませんが、著者の持つ独特の空気感、小川洋子ワールドにはそれらを凌駕する底知れない魅力があるような気がします。

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