本と音楽と珈琲の日々

読書録、日々の出来事、雑感をつれづれに

BR 『桜の首飾り』 千早 茜

桜の首飾り

桜の首飾り

桜の花の季節は少し前に終わってしまいましたが、それだからこそ、静かに咲いて、ほろほろと散った桜の花びらが瞼の奥に浮かぶようでした。
本書「桜の首飾り」に納められたどの短編も、桜そのものをテーマにしたほんのりと香り漂う作品でした。その1編1編は、ほんのわずかずつ濃淡の違いを見せる桜の花びらのように、色合いの違いを見せてくれていました。
しかし、それらは1本の糸に綴られた首飾りのように、全体でそれはまた別の美しさをもった作品となっているようにも思えました。
作者の千早茜氏については、正直なところ、本書を読むまで全くなにも知りませんでした。他の方のレビューがきっかけとなり、出会うことができました。
この作者の描くふわふわとした、あるいはひらひらとした、頼りなくはかなげな空気感は、いったいどこから生まれてくるのか、とても興味深く思いました。
作者の描く物語は、どこに行き着くのかわからないままに、読み手をその小舟に乗せて、穏やかに時間の狭間を漂っていくようです。私たちはその穏やかな揺らぎに身を任せることの心地よさに、いつのまにかほろ酔い加減に包まれてしまいます。
桜の季節にお勧めの1冊です。