BR 『されどわれらが日々-』柴田翔 『20世紀の思想』加藤尚武
久し振りの更新です。8月後半にちょっとバタバタしてしまい、気づいたら既に9月。台風が通り過ぎるとともに、夏も通り過ぎてしまったようです。
そんなわけで、8月はあまり本は読めませんでした。その中でちょっと良かった本を2冊ご紹介。
『されどわれらが日々ー』は、かなり昔に、確か高校生のころに読んで以来の再読でした。芥川賞受賞作でもあり、当時は私たち世代のバイブル的な作品だったように記憶しています。
久し振りに読み返してみて感じたことは、やはりこの時代の小説は、人間の苦悩に対してある意味、誠実で真摯的だということです。今の時代ではとかく私たちが巧みに目をそらしてしまうこと(あまりに素直すぎてちょっと恥ずかしく感じてしまうようなこと)に、ストレートに斬り込んでくる迫力があります。しかし、もちろん、そこには必然的に行き詰まらざるを得ない問題点も抱えています。
読み終えて感じたのは、やはり、私たちはかの頃とは大きく変わってしまったということ。それが良いか否かは別にしてもこの作品を通じて、諸々のことが大きく変転したという事実を否応なしに見せつけられた気がしました。
一方『20世紀の思想 マルクスからデリダへ』は、近代哲学の系譜とその思想の連関を易しく分かりやすく説いた本です。
個々の思想は理解できても、その思想が生まれた土壌と背景、必然性等がよくわからないといった感想を、特に19世紀以降の思想に関して抱いていたのですが、この本を通じて、そのあたりの整理ができ、かなりすっきりと腑に落ちました。ま、もっとも単に今までの自分自身の見識の低さと不勉強が原因ではあったのですが。
本書のまえがきに書かれている
二十世紀の哲学思想を、特定の立場や領域に偏ることなく、もっとも分かりやすく概観する…
といった狙いは、その通り、成功しているように思います。近代哲学の大きな地図、或いは相関図を私たちに示して、その流れを「見える化」してくれています。
哲学をこれから勉強しようと思っている人には、この本をスタートとして。ここから、どっちへ進んでいくのか、それが読み手に示された課題でもあり、可能性でもあります。
また、今まであちこちを彷徨してきた人にとっては、もう一度、頭を整理するためのリフレッシュポイント。
いずれにせよ、単なる哲学史の本ではないところが、この本の魅力でもあります。
以上、最近、読んだ本の中でちょっと良かった本、2冊を紹介させていただきました。夏が少し急ぎ足で通り過ぎた今の季節は、読書にとってかなり良いコンディションです。私もこの週末、読書に耽ることにします。